末廣酒造株式会社インタビュー

代表取締役社長 新城猪之吉 氏

――どうやって会津美里町工業団地の情報をお知りになりましたか?

会津美里町の高田工業団地に引っ越してきたのは平成8年だったのですが、その10年位前には既に、会津若松市の地下水の絶対量が減ってきており、工場も手狭になってきたということで様々な場所を探したり、周りの人に情報を集めてもらっていました。ただ、水質の面で私たちの希望する条件を満たすところはなかなか見つからなかったんです。 そんな折、平成7年にこの団地が立ち上がるにあたって、親戚のある会社からここの情報を教えてもらったんです。そこで井戸水の水質を調べた結果、これは良い水だ、ということでここに決めました。

――他の工業団地との比較はされましたか?

もちろんです。様々な場所を検討しましたが、やはり水質の条件をクリアできるところがなかなかありませんでした。その点会津美里町は、水の質と量については私たちの希望を満たしていたんです。本当は、私自身の希望としては環境の良い山の中にひっそりと「見えない工場」を作りたかったんですが(笑)、それだと道路や汚水処理施設の設置に費用がかかりすぎるので諦めました。
高田工業団地ならば私たちが必要とする水の質と量は手に入るし、近くに新鶴インターがあって交通の便も良い。さらに土地単価も安かったので、総合的に見てここに決めました。

――この工業団地に移転することになった、一番の決め手は何ですか?

最終的には、水ですね。ここは宮川、氷玉川という2つの川の洲になっているので、質の良い水が大量に確保できるんです。また、高田には活断層が入っていて、その断層差も良質な水を生み出すのに一役買っています。会津は水が良い、とよく言われますが、実際ここほどの質と量を兼ね備えるところは会津の中でもなかなかありません。

――それ以外に決め手となった、あるいは魅力だった点はありますか?

まずは固定資産税の優遇措置(3年間課税免除)ですね。また、大きかったのは「ふるさと融資」という国の制度を申請して、無利子の資金を借りられたことでした。この制度の申請にあたっては、町が一緒になって積極的に取り組んでくれました。無利子の融資である分、行政側がやらないといけないことがたくさんあって大変なのですが、町では私たちが移転することに対する経済効果を高く評価してくれて、難しい国の制度にも一緒に挑戦してくれました。
その他にも、元々決まっていた土地の造成スケジュールも移転のタイミングに合わせて早めてもらったりと、町と相談する形でこちらの要望はかなり聞いてもらっています。

――移転するにあたって、不安だったことをお聞かせください。

前の工場からの引継ぎですね。移転するからといって、出荷する酒を切らすわけにはいかないので、最低3ヶ月分くらいのストックは用意しないといけない。たとえ用意していても、移転先で工事が遅れてしまうと市場に酒を提供できなくなってしまいます。
また、これまで工場があった若松市内とこことでは水の質が違ううえに、移転に伴って新しい製造設備を導入したので、酒の味が変わるということに対する不安はありました。実際「以前より辛口になった」という意見はいただきましたが、1、2年もすれば新しい味を理解していただけるはずと考えて進めてきました。

――移転に伴って発生した問題や、当初の予想と違っていたことなどはありますか?

まず、うちで出た廃水はそのまま川に流せるくらいきちんと処理してあるんです。ただ、工業団地という仕組み上、うちで処理した水も共同汚水として他のところで出た排水とまとめて処理されます。その共同処理の分の費用も発生するから、私たちにしてみれば廃水処理に2重に費用が発生しているわけです。そこが辛い。
もうひとつ、移転した際に工場の東側に入り口を作ろうと思ったのですが、近くの交差点との距離が短すぎるという理由で、東側には公道設置の許可が下りなかったんです。しかしどうしても東側に入り口を作りたかったので、こちらで私道を設置して町に寄付する、という形で道路を設置するほかありませんでした。

――移転したことによって、どんな結果、あるいは成果が出ましたか?

市内に元からある、手作りで製造をしている工場と、新しくできたこの会津美里の工場との2つを持つことで、商品形態の違いを作ることができました。お客さんは手作りのものだけではなく、いろんな形態の商品を望んでいる。それに対応できる工場をここで作ることができた、というのは大きいですね。新しい商品、目玉となるような商品も生み出すことができました。

企業基本データ
・社名:末廣酒造株式会社
・本社所在地:会津若松市日新町12番38号
・企業所在地:大沼郡会津美里町字宮里81
・電話:0242-54-7788
・業種:酒造業
・操業年月日:平成8年10月1日